SFプロトタイピングが日本で初めて紹介されたのは2013年、ブライアン・デイビッド・ジョンソンの著書
『インテルの製品開発を支えるSFプロトタイピング』(監修・細谷功/翻訳・島本範之/亜紀書房)によってでした。
著者のジョンソン氏は、アメリカに本社を置く半導体素子メーカーであるインテルの社員で、
フューチャリスト(未来研究員)です。彼に与えられているミッションは、SFプロトタイピング=SFを使った10年後の予測。
ただの娯楽と捉えられていたSFをビジネスに活用する。
しかも、それをインテルという大企業が社内にフューチャリストを置いて行っている。
そのことに対して多くのビジネスマンが衝撃を受けました。
実は、SFプロトタイピングは、未来を予想することを目的とはしていません。
「こんな未来を作りたい」と想像し、その未来の姿から逆算して、「今、何をすれば良いのか」の施策を考えることが目的です。
そのため、一般的にSFプロトタイピングは「バックキャスティング」だと言われています
(現状から未来像を試算することを「フォアキャスティング」という)。
人間は現実に縛られる生き物です。例えば「月にホテルを建設したい」と言うと、決まって「それにはどれくらいの費用がかかるか?」
「物資はどのようにして月に届けるのか?」などと辛辣なことを言われ、「現実的ではない」と冷たくあしらわれてしまいます。
だから、「SF」なのです。
現実を取っ払い、自由に空想を広げてみる。それがSFプロトタイピングであり、未来のプロトタイプをSFで描くことです。
では、SFプロトタイピングはビジネスでどのように活用できるのでしょうか?
大きくは4つあると考えています。
(1)企業や事業部の「未来」の在り方を考える。
未来は不透明と言われている現代において、企業や事業部としてどのような未来が来て欲しいか、
そのためには企業や事業部は今、どう対処すればいいかを考えることができます。
(2)企業や事業部の未来の新製品、新サービスの在り方を考える。
新製品や新サービスを現代のニーズから考えるのではなく、未来を軸に考えることができます。
(3)人材育成のためのトレーニング。
不確定な未来に対し、未来を考えられる、頭を柔らかくするためのトレーニング・研修プログラムのひとつとして
活用することができます。
(4)企業が考える未来を提示し、リクルートや広報に活用する。
企業が持つ技術を活用すれば、どのような未来が描けるのかをSF小説にして広く発信することで、企業を深く理解してもらえます。
SFプロトタイピングを行う際、あらかじめ「どのように活用するのか」を定めておかなければ実施の過程で混乱します。
また、どのように活用するかを決めた後に、何を目的にするのかも定める必要があります。
僕はSF作家ではありません。SFプロトタイピングのアウトプットはSF作家に依頼します。
僕はファシリテーターとして、議論を導く役割を担います。
SFプロトタイピングを行う前の準備です。
ここではSFプロトタイピングの前提条件を決めます。
自己紹介もかねて参加者の認識の共有を図るフィーズです。
決めた未来に向けて、現在から時間を早め、どのような未来が来るのかを議論します。つまり、現状から未来像を試算する「フォアキャスティング」を行います。
ここでの「未来」をインドネシア語で「霧」を意味する「KABUT(カブト)」と呼び、クロックアップして考えられる「来るであろう未来」を「KABUT・A」とします。
KABUT・Aでは来るであろう未来を議論しました。ここではその議論を崩し、「来て欲しい未来」を考えるフィーズです。
ここで参加者は本名を捨てて、決めた未来に生きている架空の人物に「変身」します。ここで議論した「来て欲しい未来」を「KABUT・B」とします。また、未来は明るい未来=ユートピアだけではありません。場合によっては暗い未来=デストピアもありえます。この暗い未来を、「DARK KABUT(ダークカブト)」と呼びます。SF作家は、議論されたKABUT・BをベースにKABUT・Aの情報も考慮してSF小説を執筆します。
SF作家がアウトプットしたSF作品を基に、議論するフィーズです。
SFプロトタイピング作品を基に、未来のために今、何をすべきか、どうしなければならないのかを考えます。